香山家にて(白痴)


那須妙子 あらわる
どうしたんです、まるで幽霊でもみたような顔をして。
さ、取り次いでちょうだい、あ、ちょっと。
いったい、だれがきたって、とりつぐつもり?へんな人ねえ

亀田欽司
な・す・た・え・こ

那須妙子 あなた、どうしてわたしのこと、知っているの?
亀田 ぼく・・
那須 ま、そんなこと、どうでもいいわ。さ、とりついでちょうだい

(ちゃのまにて)
睦郎
おれ、結婚する、だれが何と言っても。
おまえの、くやしがる顔をみただけで、値打ちがあるよ。
母 
おまえ(そんなことまで言うか)
亀田 (現れ)
那須妙子さまがきました

(かけこむ、玄関に)
那須
 お宅の玄関、冷えるのね、失礼してあがらせていただいたわ
おや、あなた、なんだって、そんな青い顔していらっしゃるの。
紹介してくださいな。

(おびえたように、どきまぎしている)
睦郎 
妹です。
(いっしゅん、にらみあいをしている二人)
睦郎 
那須妙子さん(と言って、妹と那須をうかがう。)
那須は、にっこりとして、打ち解けようと訴えようとするのだが、相手の、睦郎の妹は頑なに表情を崩さない。)
(睦郎、母親も、前に出して、紹介をすすめようとする。)
睦郎 
ははです。
(母親、お辞儀しながら、はじめまして)
よくいらっしゃいました(と深々と頭を下げる)
那須妙子 
ほんとうに、そう、おもいになって、
母親、
え。(ぎょ)
那須 
いえ、ばかですので、わたし
もしかしたら、わたしのようなものは、
こんな立派な家庭では、
歓迎していただけないかもしれないと、考えたんですわ
母 
そんな
孝子 
おかあさま、ちょっと(母にむかい)
母 
あなたは、おちゃをいれなさい。
(すこしふてくされたように、すわりこむ孝子)
那須 
わたしも椅子に座っていいかしら
母 
どうぞ どうぞ

だめだったら、だめだというのに、
(弟に抑えられながらも、出てくる、香山の父親)
お客さんだから、ダメだというのに・・
睦郎 
ちちです、
那須たえこさん

かやま、じゅんぺい
(そういって深々とお辞儀する)
・・あわれな、追放軍人です。
じんせい50、功なきを愧ず
睦郎 
亀田君を紹介します、実に、おもしろい、人物です。
大野さんの、親戚の方でね。
那須 
ごめんなさいね、わたし、取次ぎをおねがいしたりして。
亀田 
いえ、ぼく・・
那須 
でも、あなた、どうしてわたしのこと、ご存知?
それより、さっき、わたしをみて、どうして、びっくりしたような顔をなさったの?
亀田 
ぼく、なんだか、あなたの目を、どこかでみたような気がするのですが
そこへブザーがして、赤間伝吉が入ってくる。