あるいてもあるいても

歩いても歩いても」を見た。
是枝和裕監督の映画だ。
老いた町医者は夫婦二人だけで暮らす。
お盆の法事には、次男と長女の各家族が集まるが、
一人の青年を呼ぶことが「きまり」になっていた。
その青年が子供だった時に、
海でおぼれかかり、助けようとして、
命を落としてしまった。
それが町医者にとっては、跡取りとなるはずの長男だった。

お盆の墓参りにどこでもあるような親族間のやりとりという他、
特に取り上げるような事件は起きないのだが、
クライマックスといえば、
青年の帰ったあと
現れた次男と町医者との確執ではないか。
青年は、幼かった当時と違って、
すでに20代の、大きな体になっているが、
訪問中は、自分の命が今あることに、
感謝の意を表し、
終始平身低頭の態度を崩さない。
小さなスーパーマーケットで
チラシを配るような仕事をしている。
また、来年も来てねと言われ帰っていく。

老人は、あんな奴のために、
大切な跡取りが命を失ってしまった。
クソ面白くもない。
広告を扱っている仕事をしているというが
単なるフリーターではないか。
不満をぶちまける。
次男は猛然と反発する。
あの青年だって、
自分の陥った境遇の中で精一杯生きているんじゃないですか。
医者の何がそんなにエラいのですか、と。
その次男も、多忙を装っているが、
その実、求職中の身で、
子連れのママさんとの結婚を選び、
社会の底辺でアエギかかっているような具合なのであった。

むきだしのやりとりは、このシーンだけであるが、
字幕に浮かびあがるどのセリフもとてもいい。
「生まれてきてすみません」
それ言ったの、太宰治だっけ。
いや、頭かいてすみませんというの、
林家三平だったでしょ。
といったやりとりとか。