友の会文集・原稿

入会の動機

 昭和五十八年頃、「あなたは口べたで損をしていませんか」という電車の広告を見て入ったその教室は月八回、三ヶ月で料金が三万円を超えていたかと思う。大変な負担にはちがいなかったのだが、三十人、四十人と言った人たちを目の前に、自作のスピーチが出来るのは大変有り難く思え、貯金をためてはその教室に通っていた。
 その後、学習塾に就職し、話し方教室に通うこともなくなってしまった。人前で話をするというが、その「人」にも色々な人がおり、場面も異なると、全くちがった「圧力」を受けるという事を知った。職場では数学を教えていたのだが、たまには国語の授業を頼まれたりもした。また、親たちを前に話をしなくてはいけないこともあった。自信のない場面になってしまうと、どうしてもそれが表情に出てしまう。
 (やはり人を相手にする仕事に向いていない)と思いこみ、退職してしまった。
 その後、別な業界に移ったが、これまでと全く異なった人々を相手に右往左往する日々である。
 この中で、再び友の会に入会できたのは実に幸運であったと言える。練習を怠れば元の木阿弥にもどってしまうという教訓を得たのだ。
 話し方で失敗し、自信を失ったなら、矢張り人前で話をして自信をとりもどすしかない。その練習は生きている限り続くのだと思う。