桜の園

 「桜の園」が、面白い。これはネット「gyao」にても無料で見られる。
 その女子高校では毎年、チェーホフの「桜の園」が演じられるのだが、その上演場面はこの映画ではない。
 上演当日の模様が事細かく描かれている。
大きなドラマが起きるわけではない。そこでやりとりされている場面は、どこの女子校でもあるようなありふれたものばかりである。

 清水さんという部長の立場にある生徒がパーマを掛けてくる。
 「すてき」と言う子もいれば、「禁止されているよ」と警告する子もいる。「髪型が違うだけでこんなに雰囲気が違うとは」と褒める子もいる。
 その場に居たら誰でも発するような台詞ばかりだが、言葉の響きが極めて新鮮だ。
 さて、そのパーマを巡って、清水さんは、確かに里見先生ににらまれることになるが、当事者の清水さんの戸惑いも、わざとらしくもなく、決まり悪い思いをするモノなら誰しも浮かべるような表情を浮かべる。
 しかし、ことさら(大人への反発)を強調するような仕草はない。一瞬の表情で終わってしまう。
 
 そこがいい。

 およそ、出演する女生徒たちは、短い台詞を言い合うのだが、そのどれも作為的なものは感じられない。
 その場その場の持ち味を良く出している。

 杉山さんという女生徒が制服で、たばこを吸って補導されたが、これが原因で、「桜の園」の上演が中止されたらどうしようか、となる。
 これが事件と言えば、事件らしい唯一の出来事である。

 演劇担当の里山先生はまだ若く生徒には親しみ安いが、年輩の先生たちの言いなりになってしまうのではないかと生徒の一部は危ぶむ。
 里山先生というと、元はその女子校の生徒であり、今でも「生徒」扱いしている先生がいるらしい。だから、里山先生が、いかに、上演を実施したいと言っても他の先生達に押されて主張をへし折られるのではと心配する。

 こうした生徒たちだけの不安の声も、いかにも自然なものである。
 しかし、せりふのひとつひとつが、(もっと聞きたい)と思わせる良い声でやりとりされていく。

 主役はあるようでない。ひとりひとりがそれ自身の声の高さと、さりげない表情で演じている。
 視聴者は、女子高生という桜の園をさまよっているような、やさしい感覚に包み込まれる。