再び、櫻の園

櫻の園をみた。

桜花学園では、卒業式典に先立ち、毎年・演劇部による「櫻の園」が上演される。
 部員の杉山が喫茶店で喫煙補導されたことが原因で、臨時職員会議が行われ、上演中止の問題が出てくる。顧問でもある、若い里見先生の尽力もあって、無事開演に持ち込める。
 そんななか、渦中の部員となった杉山と、当日、禁止されているパーマをしてきた部長の清水が、誰も居ない部室控え室にて、話をする。

 この場面が映画を最も盛立てた一つではあるまいか。

杉山「清水さん、倉田さんのこと好きなんでしょ」
清水「それって、どういう意味?」
杉山「どういう意味って、言葉通りの意味に過ぎないけど・・レズとかそんな意味ではなくて、なんて言うかなあ、それとなく感じたことを言っただけ」
清水(沈黙)
(考え込む感じ)。
清水「杉山さん、どうして女子校に来たの」
杉山「深い理由はないけど、親が勧めるし、共学に入って悲惨な目にあった話、聞いていたし。月のモノが始まると、様子がヘンね、あんたアレなんでしょ、なんて、からかう奴とか、背中を見て、ブラジャーの線を言い立てる奴とか、泣かされた話聞くから」
清水「そうそう、私も、小学校の時、こっそりとハンカチに包んでトイレに持って行こうとしたら、めざとく見つけた男子がいて、あれ、何を持っていくのって、大きな声で言われた。あいつのこと、絶対、許せない。たとえ、大きくなって、そいつが偉い大人になっても、私の時計は、あそこで止まったまま、永遠に憎んでやるの」
(表情は、怒りに満ちている)

あの血相を変えた表情がなかなかいい。

そして、もう一つの山場は、なんといっても、開演直前の場面だろう。
 倉田は、身長も高く、穏やかな性格である。そして劇では主役である。しかし、緊張のあまり黙りがちだ。そんな倉田の隣に座り、清水は一緒に、せりふの発声に付き合ってあげる。そして、言う
「カメラを持ってきたの。一緒に撮ろう」
 建物と建物の間の狭い空間である。カメラを設置して、リモートスイッチ式のもので写す。物陰に杉山がいて、やはり緊張からか、タバコをふかしている。
 一緒に腰掛けに並んで座り、ぱちり。
「もう、ひとつ撮ろう」そのとき、清水が言う。
「私、倉田さんのことが好きなの」
倉田、驚いた様子で、動きが止まる。
すると、清水が又言う。
「私、倉田さん、好きよ」
反応がないので、続ける。
「おかしい?」
倉田は、やっと相手の言うことが呑み込めたというふうで、「ううん、おかしくはないわ、もういちど、言ってくれる」
清水はうつむいたままに、
「私、倉田さんのこと、すきよ。」
倉田はお茶目な表情を浮かべ。
「もう一度」
清水「わたし、倉田さん、すきよ。もう一度、近くへ行って撮ろう。」
 二人は、腰掛けを近くに寄らせてまた、写真をとる。
この一部始終を、物陰で、タバコをくゆらし、すずしい表情で杉山は聞いている。
 間もなく、担当部員が、現れ
「もう始まります、急いでください」とせかす。
 背が高く、温厚で、その上美貌で、演劇の主役を務めようとする倉田。自分にない全てを持ち合わせているその倉田は、清水にとって憧れの人である。
 その倉田の苦悩を見抜いて、やさしく、思いをこめた応援をする清水の姿がすがすがしい。

 やさしさとは何か、生きる希望を与えてくれる映画だ。