カサブランカ

https://youtu.be/dQHrvhWeUe8

米国映画、カサブランカは、1942年に製作されたものである。1939年に始まり1945年に終結することになる第二次世界大戦のさなかである。当時、参戦した各国当局は、娯楽として大衆に浸透した映画を政治的に利用、戦争への士気発揚に利用しようとする傾向があった。「カサブランカ」も、敵国ドイツに立ち向かう姿勢を促そうとするプロパガンダと位置づける向きもあるようだ。しかし、戦後70年近くたった現在も、映画史上、ラブロマンスとして優れた作品で、米国のみならず、世界各国の人々に親しまれているものである。
 内容をみてみよう。戦争初期のドイツ軍の勢いはすさまじく、隣国のフランスもその勢いを阻止することはできなかった。パリは陥落し、フランス本国、そしてその植民地にも支配は及んだ。地中海を挟んでアフリカ北端にある仏領モロッコにもドイツ軍将校が駐留し、現地の警察他役所にも監視の目が及ぶようになった。
 舞台の中心的な登場人物は、ナチズムに抵抗する地下組織の幹部ラズロとその活動を支える妻のイルザである。彼らは、モロッコカサブランカに在住し、そこから中立国のポルトガルリスボン経由で米国に逃れ、活動を更に拡大しようともくろんでいた。
 しかし、出国許可証(ビザ)は、ドイツ軍の審査が無ければおりず、その書類は闇で法外な値段で取引されていた。そのビザの買い取りの為に、二人は、米国人の経営する酒場を目指す。
 ところが、その店の経営者リッツと、活動家の妻イルザとは、陥落前のパリで、短いが燃え上がるような恋愛をした同士でもあった。出会った当時、活動家はドイツ軍に捕獲され、死亡との情報が流され、妻のイルザは絶望感にうちひしがれていた。事情あってニューヨークから、危険なパリに来たリッツもいよいよ明日の命も分からぬ 状況に、目の見張るような美女が目の前に現れ、決断は早かった。
 パリを離れようとする雨の夜、駅で待ち続けるリッツに届いた知らせは、置き手紙を残して忽然と消えてしまったという知らせであった。そうして、時を経て星の数ほどある店で、偶然にも、客と経営者という巡り合わせで顔を合わすことになった。
 まるでファッションショウー出演の役目を果たして、気晴らしに立ち寄ったとでも思える長身美形の女性に、相応な男性付き人といった二人の登場でもある。映画を見る人で受ける印象はそれぞれであろうが、静かにして劇的な登場に思えた。
 男性は直に当局の求めで席を立つが、女性は見覚えのある黒人歌手に「時の過ぎゆくまま 」をリクエスト。求めに応じて甘く切ないメロディを歌い出す。
 店内で禁じている曲が流れ、狼狽周到の呈で経営者のリッツは、駆けつける。そして、ピアノを奏でる横で思い出をかみしめているイルザとの衝撃的な再会。驚く余裕もなく、夫のラズロと現地警察署長ルノーが現れ、「初対面の挨拶」となるのだが、思いとはうらはらに、「どこかでお会いしたようですわね」と人ごとのように言うのだった。
 盛り上がりはなんと言っても、歌い合う場面かもしれぬ。
 新婚旅行にもなるはずだった夜、列車での乗りあわせの約束を一方的に破ったと憎しみを隠さないリッツと、それっきりにしたいが、そのリッツが米国行きを許可する書類を所持しているとの噂を聞き、縁を利用して目的を果たさなければならない状況になったイルザ。再び夫婦そろって出向いたそのお店で、侵略の成功に酔いしれるようにドイツ人たちが軍歌で存在を誇示しようとしている場面に出くわしてしまう。心に眠っていたものが起きあがったかのように夫のラズロは、休息している楽団の前に小走りし、フランス国歌を促し、指揮するのだった。演奏に合わせて、店の誰も彼もが、この曲に和するようになり、圧倒的な音響の前にドイツ曲は押しつぶされてしまうのだった。
 憤慨した将校は、店の閉鎖を宣言するよう現地警察に命ずる。署長は、賭博を理由に閉鎖を経営者リッツに対して命ずる。その署長こそは、賭博常習であり、お店の上客なのであったが、お得意さんのお言葉には逆らえない。営業停止となる。
 この映画には幾つかの名言がちりばめられており、見る者をして記憶に残らしめるものとしている。「キミの瞳に乾杯」。ビザを渡しなさいと、かつての恋人に銃口を差し向けられて、「キミと過ごしたパリの夜のことを忘れはしない、幸せだった。さあ、ひと思いに殺ってくれ。ボクは悔いはしない。」などといったセリフが特に有名である。
 あふれる感情に、大声を上げたり、机を叩いたり、目玉が飛びださんばかりといった大げさなアクションにしないで、抑え気味にさせたことで、せりふの含蓄が一層高められたのではないか。
 怒りを爆発させて得られるものはないと言われる。その衝動も6秒くらい耐えれば乗り越えられるというが、庶民たる我々には、なかなかその法則は守られないようだ。