s君のこと

高校2年のとき、s君という、
ちょっと目立つ仲間がいた。
彼は、テニスサークルに加入していたようだ。
身長が180を超えて、
やせているので尚更長身にみえた。
女性のように長髪にしていて、
少しパーマネントかかったように曲がりくねっていた。
まるで、ベートーベンだ。
どこか遊び人風だけれど、
声はいたって小さく、かぼそかった。
前の席の女生徒に、よく話しかけていたけれど、
余り相手にされていなかった。
でも、時には、君の期待に応えて?
応答していた。
s君は、すでに中学浪人を経験していて、
勉強は得意というほどではなかった。
女生徒ばかりではなく、
ボクにもよく話しかけてくれて、
そんなときにはちょっとした気晴らしになった。
お父さんは、お医者さんということだった。
ま、地元の医療関係、あるいは教育関係は、
すべからく、
Y高校に通学するのが普通であったので、
珍しいとは言えなかった。
s君は、3年生になったころには、
学校から姿を消してしまった。
不良仲間にそそのかされ、悪事にかり出され、
高校を退学したという噂もあれば、
留年が決定して、メンツがたたず、
東京の私立高校に転校したという噂もあった。
いずれにせよ、
彼は秋田県立Y高校から姿を消してしまった。

 この年齢になって、妙に、S君のことが気になり、
インタネットにて、
かれのなまえを検索してみた、
彼は、郷里にもどり、
皮膚科の開業医として、
つとめをはたしていることがわかった。
お父さんの資金をたよりに、
医学部に進学して、なんとか、
国家試験にも合格したものとみえる。
人柄からして、彼は、医者にうってつけだと
ボクはおもう。
きっと、繁盛していることであろう・・

 あのS君が、
机に向かっている姿を想像もむずかしいのだが、
彼なりに努力したものとみえる。
東京大学出ても、
国家試験に合格できない者も毎年何人かいると聞く、
だから試験に合格しただけでも
立派なものだ。
人間、がんばりが大切だ、
必死になればなんとかなるものであろう。
S君がそのよい例である。